所在地:神奈川県保土ヶ谷区
用途:住宅(リノベーション)
延床面積:104.68 m2
撮影:木下裕見子

崖の家

思い出に包まれて暮らす

急な崖地に建つ一軒家のリノベーション。周辺一帯の宅地が車道に接道せず、幅1.5mほどの階段歩道でしかアクセスできないため、再建築不可のエリアである。材料の搬出入が困難なので、小型軽量な資材でつくりあげることを心がけた。幾度も塗装し直された劣化の激しい既存外壁(サイディング)には、その上から通常外部舗装で使用するゴムチップシートを貼り、断熱性能の向上を図るとともに、建物全体が地形の一部であるような独特の印象を与えている。住人は母+娘1人だが家財道具も多く、亡き夫との思い出も溢れているため、シンプルにすっきりまとめるというよりも、むしろ家具や身の回りのものも、外の風景と連続する一連の地形のように感じられて、そういったさまざまな環境に優しく包まれていると感じられるような空間を目指した。間取りは大きく変わったものの、既存の柱も無理に無くさずにあえて残すことで、昔の家の思い出がいつも身近に感じられるような空間とした。

s_IMG_2605

s_R0017218s

高齢者が介護施設に入居したとたんに、今までと全く異なる環境に馴染めず、寂しさや悲しさを忘れるために脳が防御本能を働かせて、ぼけが始まることが多いという。どんなに工事が難しい土地であったとしても、最後までその場所に住み続け、自分の人生をつくりあげた家族や友人や持ち物、失われた家族との記憶に囲まれ、人生を送るということ。そういった権利を専門的な知識をもって最大限肯定していくことも建築家の大切な仕事だと思う。